活動報告

第6回社会医学若手フォーラム開催のご案内

 2022年12月22日(木)、2023年1月6日(金)、1月26日(木)に、第6回社会医学若手フォーラムを3部に分けてWeb開催します。ランチタイムに短時間での開催となります、昼食をとりながらぜひお気軽にご参加ください。
 第1部は品川貴郁先生(日本生命保険相互会社)から生命保険における保険医学の役割と医師の仕事について、第2部は渡辺和広先生(北里大学)から労働者の身体活動とメンタルヘルスの関連および身体活動促進の方法論について、第3部では勝井恵子先生(国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED))からわが国の医学史および現在の医療開発における医療倫理(「医」のあり方)について、お話をいただく予定です。
 本フォーラムは参加無料です。
 参加登録フォーム https://forms.gle/PiztN1mLN4EkFDZx8 よりお申込みください。

開催趣旨

 今、日本では人々の命と健康に関わる課題に応じて様々な研究が立ち上がっていますが、社会医学を網羅する形で、分野横断的にそれらを結び、新たな研究につなげる場がなかなかありませんでした。そこで、日本医学会連合社会部会で開催された若手リトリート2019からの派生企画として、社会医学若手フォーラムを定期的に開催し、人をつなぐ場を設けてきております。普段、聞けないような話を気軽に聞いて、参加者同士で交流し、アイディアの種をもらったり、育てたりできる場になることを期待しております。
 第6回社会医学若手フォーラムは、2022年12月22日(木)、2023年1月6日(金)、1月26日(木)のランチタイムにオンラインでの開催となります、昼食をとりながらぜひお気軽にご参加ください。若手研究者のみでなく、学生の方、シニア研究者の方も、ご関心のある方は歓迎します。多くの方々のご参加をお待ちしております。
 参加申し込み方法等は、下記ご参照ください。

日本医学会連合 社会医学若手フォーラム世話人一同

開催概要

日本医学会連合 第6回社会医学若手フォーラム
日時 第1部:2022年12月22日(木)12:10~12:50
第2部:2023年1月6日(金)12:10~12:50
第3部:2023年1月26日(木)12:10~12:50
場所 オンライン(Zoom)
対象 社会医学若手フォーラムの趣旨に賛同する研究者
内容

登壇者3名による自己紹介・研究紹介および質疑
・登壇者(敬称略)
第1部:品川 貴郁(日本保険医学会・日本疫学会、日本生命保険相互会社)
演題名 生命保険と保険医学について

第2部:渡辺 和広(日本産業衛生学会、東京大学)
演題名 労働者の身体活動とメンタルヘルス

第3部:勝井 恵子(日本医史学会・日本生命倫理学会、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED))
演題名 「医」のあり方をめぐる約100年史:「医」の思想から「社会共創」へ

参加費 無料
申込方法 事前登録制:下記フォームより、お申込みください。
参加登録フォーム
申込期限 ・各部開催日3日前まで
第1部:2022年12月19日(月)
第2部:2023年1月3日(火)
第3部:2023年1月23日(月)
問合先 山本 琢磨(兵庫医科大学法医学教室)
shakai.wakate [a] gmail.com
主催 日本医学会連合 第6回社会医学若手フォーラム
タイムテーブル(予定):

12:10 趣旨説明
12:15 演者による講演
12:35 質疑応答
12:50 終了

演者詳細

演者1 品川 貴郁

所属 日本生命保険相互会社 医事研究開発室

主な所属学会 日本保険医学会、日本疫学会

略歴
2010年名古屋大学医学部卒業。国家公務員共済組合連合会名城病院で研修後、名古屋大学医学部附属病院放射線科、放射線医学総合研究所病院(現QST病院)治療課を経て、2013年日本生命保険相互会社入社。2018年大阪大学大学院医学系研究科社会医学講座博士課程修了。社会医学系専門医、日本保険医学会認定医、日本医師会認定産業医。

演題名 生命保険と保険医学について

発表要旨
 保険を成立させるための基本的な考え方として、大数の法則、収支相当の原則、給付反対給付均等の原則がある。これらを実現するためにはリスクが均質化された被保険者集団の形成が必要となるが、その際に被保険者集団が具備すべき条件として、公平性の原則と危険均一性の原則がある。
 生命保険では、一定の死亡率や保険事故発生率を基礎として算出した保険料により、被保険者の死亡などの損害を補てんし、相互扶助を実現している。もし予定の死亡率・保険事故発生率を超える人々を無造作に混入させれば、保険会社の支払いは著しく増え、善意の加入者が不利益を被ることになる。このような状態を回避するため、保険会社は予定の死亡率・保険事故発生率を超えると判断される人については契約を見合わせる、または加入条件の変更により契約する等の方法で被保険者の選択を行う。これを危険選択と言う。
 保険法では、保険契約者・被保険者は保険会社が告知を求めた重要な事項(例:入院歴、手術歴、健診での異常指摘の有無など)について告知する義務が課せられている。また保険の加入内容によっては、診査と呼ばれる形式で医師が被保険者の身体診察を行う場合もある。保険会社は告知や診査等により得られた健康情報をもとに危険選択を行っている。
 ところで、生命保険会社には医務職員と呼ばれる医師が勤務している。当社の場合、医務職員は大きく診査医と査定医に分けられ、診査医は①被保険者の健康状態を把握するために問診・身体診察・検査を行う診査業務や、②会社に勤務する職員の健康維持を担う産業医業務を主に担当している。一方、査定医は①被保険者の健康状態から予測されるリスクに基づき保険引受の条件を決定する引受査定業務、②保険金の支払請求があった際に契約上の保険事故に該当するかを判断し、保険金を支払うかを判断する支払査定業務、③最新の医学的知見を活かして引受範囲拡大や新商品開発などを検討する医事研究業務を担当している。
 生命保険会社は被保険者の新契約加入時の情報と支払時の情報を保有しており、これらのデータを組み合わせることで、健康状態別の支払事由発生率などを分析することが可能となっている。ただし会社内で分析できるのは危険選択後のある程度健康な集団に限られるため、これまで保険を引受けられなかった人々については、社会医学分野の研究成果等を踏まえて保険の引受範囲拡大を検討していく必要がある。

演者2 渡辺 和広

所属 北里大学医学部公衆衛生学

主な所属学会 日本産業衛生学会

略歴
2013年、広島大学大学院教育学研究科心理学専攻臨床心理学コース修了、2018年、東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程修了 (保健学博士)。日本学術振興会特別研究員 (DC1、2015年4月~2018年3月)、東京大学大学院医学系研究科精神保健学分野助教を経て、現在に至る。

演題名 労働者の身体活動とメンタルヘルス

発表要旨
 身体活動の促進は、循環器系疾患、Ⅱ型糖尿病の疾患の予防だけでなく、抑うつ・不安の予防にも有効であり、メンタルヘルスの保持増進において重要な課題である。労働者を対象とした研究では、身体活動の促進によって仕事のストレス、欠勤、仕事のパフォーマンス、および離職等のアウトカムを改善できることが報告されているほか、労働者における主要な精神障害の一次予防のための最もエビデンスのある介入の一つであることが報告されている。労働者における身体活動水準が不十分な労働者の割合が大きいことからも、労働者の身体活動の促進は重要な課題である。
 職場において労働者の身体活動を促進する方法論として、労働者個人への認知行動的なアプローチに加え、職場の環境調整を含む複数の要因を組み合わせた介入が有効であることが知られている。事業場内のフィットネス設備、階段、エレベーターのような物理的環境や、身体活動促進に関する文書化された方針、ルール等の心理社会的環境を整えることで、労働者の行動変容を促進できる可能性がある。
 これらの介入は、健康増進に関心のある一部の従業員しか反応しない、資源の乏しい中小規模の事業場では実施が難しい等の実装上の課題がある。また、身体活動とメンタルヘルスの関連は、身体活動が実施される領域 (domain) によって異なることが分かってきており、余暇時の身体活動と比較して、仕事関連の身体活動はメンタルヘルスとの関連が弱く、メンタルヘルスと逆相関する場合もあることが報告されている。したがって、労働者それぞれの嗜好、ニーズ、あるいは仕事に要求される身体的な負担等を考慮しながら、個別化された介入プログラムを提供することが求められている。
 その解決策として、モバイルヘルスによるアプローチが試みられている。情報通信技術を活用したこのアプローチは、従来対面で提供されてきた心理教育、行動のフィードバック、目標設定、行動計画の立案の支援等を、個人の端末に届けることが可能である。スマートフォンやウェアラブルデバイスから取得される身体活動のデジタルデータは、機械学習・深層学習といったいわゆる人工知能との相性がよく、介入の内容を個人の状況に最適化した形で届けることも期待される。

演者3 勝井 恵子

所属 国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)

主な所属学会 日本医史学会、日本生命倫理学会

略歴
2007年お茶の水女子大学文教育学部卒業。2009年東京大学大学院教育学研究科修士課程修了、2015年同大大学院博士課程単位取得満期退学。博士(医学)。東京大学大学院医学系研究科医療倫理学分野を経て、2017年より国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)勤務。専門は医療倫理、医学史、教育学。

演題名 「医」のあり方をめぐる約100年史:「医」の思想から「社会共創」へ

発表要旨
 わが国における生命・医療倫理学(Biomedical Ethics)は、1970 年代に欧米よりもたらされ、学問として発展し、今日に至ると一般的に解釈されています。欧米におけるバイオエシックスがいかにして生まれたのかという経緯については、すでに多くの先行研究にて取り上げられていますが、一方でそれ以前、すなわち「バイオエシックス」というものが日本に輸入される前の生命・医療倫理をめぐる史的考察は、管見の限りそれほど蓄積がありません。
 生命・医療倫理学が対象とする問題群は、今でこそELSI(Ethical, Legal, Social Issues:倫理的・法的・社会的課題)などと称されるものの、それらの問題は、学問が成立したとされる1970 年代に突如として立ち現れてきたものでないことは明らかです。長い医学史のなかで、医療者の職業倫理や医療者・科学者のあるべき姿、医療や科学のあり方や医療実践をめぐる倫理的諸問題などについては、その当時の医療者や科学者がそれぞれ自分なりの問題意識を持ち、議論を積み重ねてきています。実際、わが国において生命・医療倫理学が学問として出発する前段階には、「医学概論」や「医学哲学」、「生物哲学」といった名称の学問分野が存在し、同様の問題群についても考察を深めていたことはよく知られています。
 このような状況下、近代医学の成立以降、つまり医療者が制度的な医学教育を通じて育成される時代になって以来、医療者や科学者のあるべき姿や、医療や科学のあり方は、どのようなものであるべきと考えられ、伝えられようとしてきたのか――この点こそ発表者が長年抱く問題関心です。
 そこで本発表では、第Ⅰ部では発表者が取り組んできた「医」の思想に関する史的研究について、第Ⅱ部では、現在の医療研究開発において求められる「社会共創」の考え方についてご紹介いたします。