入学時の診療科選定枠に対する声明を掲載しました。
(2022年10月5日、永岡桂子文部科学大臣宛、伊藤孝江文部科学大臣政務官に門田守人会長、磯博康副会長より提出)
2022年8月23日
入学時の診療科選定枠に対する声明
一般社団法人日本医学会連合は、医学及び医療における研究・教育の推進と実践を担う医学系141の学術団体の連合体として、医師養成の上で医学教育の6年間は、最も重要な機会と位置付けている。なぜなら、6年間の医学教育をとおして、基礎医学、社会医学、臨床医学等の学問領域とそれに基づく実践を学び、医師として必要とされる全人的な知識・能力と基本的技術を涵養するからである。そのうえで、卒業時もしくは初期臨床研修中に自身の特性・適性を考慮して専門性を選択するに至る。進路や働く場所の選択の自由のもとで医学・医療を支えることが我が国の卒前・卒後教育の目指すところである。
一方で、その自由な選択が医師の地域偏在を生じる要因となり、国民の健康を守る公共性の面での課題が顕在化してきたことも事実である。その解決策の一つとして、1997年に大学独自の判断で地域枠が開始され、2006年の初期臨床研修制度の開始に伴い全国的に地域枠が増加し、2021年には1,721人(全体の2割)に至っている。地域枠の評価に関しては、全国医学部長病院長会議等の継続的な調査により医師の地域偏在の緩和に一定の効果があることが報告されている。さらに、地域内での診療科の偏在(例えば、産科、小児科、麻酔科、外科、救急科等の医師不足)も顕在化したことから、主に自治体の要請によって地域枠の中に診療科枠が導入されてきた。
現在、全国21都道府県で修学資金貸付制度と併せた診療科枠の募集があるが、地域枠と同様、修学資金貸付の募集は医学部入学時に行っており、全国医学部長病院長会議の調べによると2020年の診療科枠入学者は129人(地域枠の9.0%)となっている。大学側が診療科枠によって医学教育の正式なカリキュラム上で差を設けていないとはいえ、対象となる医学生にとっては上記の医学教育の根本理念から乖離する形で医学を学ぶ可能性は否定できない。そのため、診療科指定によって教育の機会均等の原則が揺るがないよう、留意する必要がある。また、自治体によっては診療科の最終的な決定に際しては、「自治体の医療の現状、医師本人の特性(希望、能力、適性)等を総合的に勘案して、自治体が指定」という様な記載があり、必ずしも医師本人と自治体の間の平等な立場での合意が徹底していないケースが存在することは否定できない。
医師の地域偏在の問題から、医学教育の場において地域枠が開始され、また、地域における診療科偏在の問題から、診療科枠が始まっている状況があるが、これらの問題が生じている根本の原因は何かを究明し、問題を本質的に解決するためには何をすべきかを検討する必要があるのではないか、と問いたい。しかし、現在は単に偏在そのものへの「対症療法」が議論されているに過ぎない。根本の解決を図らず、「対症療法」のみに終始することは、医学教育の基本を誤った方向へ誘導する危険性があると考える。今後、医学部定員枠の操作などによって、診療科指定を容認するようなことが起こるとすれば、日本医学会連合として看過できない。
少子超高齢社会の我が国で、今後も医学・医療を高いレベルで維持・発展させるためには、医学教育者、医療従事者、自治体、国の間で、卒前・卒後の医学教育に関して抜本的な制度改革に関する真摯な議論を行い、国民の理解を得ていくことが求められる。診療科偏在の根本の原因への対処として、地方での診療のインセンテイブ確保の観点から、地方と都市部の複数拠点での診療、卒後研修、子どもの教育の体制の整備・充実など、日本医学会連合として関連団体と今後とも議論を深めていく所存である。
本声明は、一般社団法人日本医学会連合 専門医人材育成検討委員会の審議結果を受け、理事会の意見を取りまとめて公表するものである。
一般社団法人日本医学会連合
会長 門田 守人
副会長 飯野 正光
副会長 磯 博康
副会長 門脇 孝
副会長 森 正樹
理事 今井由美子
理事 北川 昌伸
理事 宮園 浩平
理事 苅田 香苗
理事 川上 憲人
理事 岸 玲子
理事 春日 雅人
理事 小池 和彦
理事 小室 一成
理事 寺本 民生
理事 名越 澄子
理事 南学 正臣
理事 矢冨 裕
理事 苛原 稔
理事 大川 淳
理事 北川 雄光
理事 齊藤 光江
理事 澤 芳樹
理事 瀬戸 泰之
監事 北 潔
監事 秋葉 澄伯
監事 神庭 重信
監事 里見 進
専門医人材育成検討委員会
委員長 瀬戸 泰之
担当副会長 磯 博康
委員 稲垣 暢也
委員 今中 雄一
委員 冲永 寛子
委員 門脇 孝
委員 北川 雄光
委員 草場 鉄周
委員 小西 靖彦
委員 齊藤 光江
委員 坂本 哲也
委員 寺本 民生
委員 矢冨 裕
委員 川上 憲人